Peanuts Monkey Cuisine

I am just a monkey man, I'm glad you are a monkey woman too!

ジャズ談義(11)会話

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A Peddler and Children, Kanyakumari, India

いつだか知人のひとりが、俺がもっとも我慢できないもののひとつは、スマートフォンをいじる親指だね、と言った。スマートフォンが嫌いなら持たなければいいじゃないか、と私は言う。ちがう、そういう話じゃない。電車の車内で乗客どもがうつむいてスマートフォンを操作しているだろう。脇目もふらずに画面をクイクイと指で操作している、これがどうしても我慢できない。あのせわしない指の動きが画面の隅に入るだけでもう読書もなにも集中できないんだ。居てもたってもいられなくなる。親指がダメなら、人さし指なら大丈夫なのか? なんだって? いや、複雑な操作をするときって、だいたい人は人さし指で画面をいじるじゃないか。それも等しく問題になるのか、それとも君の嫌悪は親指限定性なのか? 君がなにを言っているのかさっぱりわからない。だから、人さし指も親指と同じように問題になるのか? 俺の話の揚げ足を取りたいのか? いや、そうじゃない、と私は言って沈黙した。それから沈黙を破るために尋ねた。それでその指嫌悪に対する対策はなにか見つけたかい? 車内では常にアイマスクをしている。冗談だろう。もちろんジョークだ。じつのところね、と知人は言った、本当に困っているのは、人が画面をクイクイいじっているのは我慢ならないが、俺自身も必要に迫られるとときおり電車内でクイクイいじりを始めてしまうことで、俺のようにクイクイ抵抗性のない無辜の人々を傷つけていると思うと、心がシクシクと痛んでくるのだ。じゃあ君はせめて電車内でスマートフォンいじりをやめればいいじゃないか、私なんて電話なんてしょっちゅう家に置き忘れているぜ。そうはいかない、俺には恋人がいるんだ。だからどうした、恋人なんていつだって連絡が取れるじゃないか。いつだって取れるわけがあるものか。妻帯者が恋人と自由にコンタクトできる時間なんて、毎日の通勤時間をおいてほかにない。家には妻と子どもがいるし、会社ではそんな時間は一分たりともない。昼飯どきとか、ちょっとくらい時間は取れるだろう? 昼飯はいつもニューズウィークを読む時間と決めている。じゃあ朝家を出る前とか、夜寝る前とか。朝飯は毎朝妻と食うし、夜は妻のとなりで眠るんだ。だいたい僕は妻のいる空間で恋人とこっそりコンタクトするような不義理はいたしたくない。不義理って、お前、妻帯者が恋人を持つことは不義理じゃないのかよ。ふうむ、君も分からず屋だね。だいたいスマートフォンをいじる人々がすこしだけ気に障る、という話をそこまで飛躍させる必要があったものかね? 君は幾許か道徳的に過ぎるんじゃないか? 私はそこで沈黙した。(文章・写真:落花生)