Peanuts Monkey Cuisine

I am just a monkey man, I'm glad you are a monkey woman too!

ジャズ談義(12)石鹸面

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An Interview, Yerevan, Armenia

石鹸面をした男女というものが世の中にはいて、読んで字のごとく、つるつる白くて石鹸くさいにおいをさせている。名前はナカノ、とかオオクボ、とかが多い気がする。中央線の下り列車に恨みはない。ともかくこのナカノやオオクボたち、いっけん綺麗でかぐわしそうだが、いかんせん実がない。中野や大久保みたいなややごみ臭い街とはぜんぜん似ていない。どちらかと言えば、なんちゃらタウンとか、ウンタラの丘、とかそういうぺらぺらの新興住宅地によく似ている。一歩足ならぬ手を差し出したとたんに、つるっと滑ってしまい、それでもなんとか把持して手の内であらためているうちにどんどんすり減ってきて、しまいにはもぬけの殻どころか、殻も皮もないスッカラカンになってしまう。こちらの手垢を吸ってくれて便利そうだが、私としては人の顔に触れるときに手垢を吸ってもらいたい気持ちはない。人の顔はそれなりのもの、汗だの毛穴だのもみあげだのファウンデーションだのにまみれて、それなりに汚れていてくれてかまわない。汗ばんで脂ぎった交流がしたいとまでは言わないが、人との生身の触れ合いは、洗顔ではない。洗顔というのは必要時に必要な分だけするべくものであって、その点はシッコみたいなものである。じゃばじゃばやって、ぴっと水を切って、ふうと息をつく。それから社会に出ていく。あの手のシッコ野郎女郎ども、じゃなくて、石鹸面をした男女たちが好ましくないのは、こちらにインセサントな洗顔を強要するからである。こっちが接吻を要求しているときでも洗顔しかさせない。石鹸はかじるとじつに不味い、というか有害である。ところでうちの浴室にある石鹸は、白色ではない。うぐいす色というか、白濁した煎茶色というか、ともかく微妙なうす緑色をしている。匂いもそれっぽくて、レモンかレモングラスみたいな香りがする。その成分なのか、石鹸中に黒いブツブツがたくさん散っていて、表面もどういう仕掛けなのか、つねになんとなくぼこぼこしている。こういう謎の芳香をさせている、あばた面の石鹸男女、みたいなのがいたら、会ってみたい。中野や大久保あたりでナンパするかナンパを待てばいいのかもしれない。もっとも石鹸の亜種より、上等な天婦羅とか上品な果実みたいな男女のほうが好ましいのは言うまでもないのだが。(文章・写真:落花生)