Peanuts Monkey Cuisine

I am just a monkey man, I'm glad you are a monkey woman too!

ジャズ談義

ジャズ談義(23)神様

Three Children, Chefchaouen, Morocco きのう赤い頭をした緑ずくめの男と、緑色の頭をした赤ずくめの女が、交差点を横断しているのを見かけた。じつは火星人と木星人の話なのだが、ここではあくまで頭髪を派手に染めあげた若者たちの話として聞いてほしい。…

ジャズ談義(22)金髪

Three Cats, Inle Lake, Myanmar きのう夫がロバート・レッドフォードの顔をした人形を買ってきた。すこし汚れたかんじの金髪といい、肌の荒れたかんじといい、よく本人が再現されていると思う。薄紺色のスリーピースのスーツを着ているのは、夫いわく『ステ…

ジャズ談義(21)女国

A Man and a Child, Prizren, Kosovo いまでこそ、煙草を吸う女は、あの隔離区域に追いやられた煙草呑みたちのなかでも、とりわけ肩身の狭い人種、それこそまるで黄色い札付きのような存在として見られているけれど、かつては女たちが普通に煙草を吸っていた…

ジャズ談義(20)風光

Chair Car, Mysore, India インドで列車旅をしている最中に、鼻水が止まらなくなった男を見たことがある。プリーというしなびた海辺の町から、つぎにまた同じくらいしなびた見知らぬ町に向かうところだった。弁当を食べおわって、座席にだらりと横になり、目…

ジャズ談義(19)老成

Two Dogs, Hampi, India 私の窓辺には乾燥葡萄が生っている。これは形容矛盾ではない。乾燥葡萄は乾燥葡萄として生まれて育ってもがれて死ぬ。言い換えれば、よく熟れてぷくぷくに実った葡萄の実が、次第に水分を失って枯れていき、やがてしわしわの乾燥葡萄…

ジャズ談義(18)若年

At the Shore, Nice, France これは友人の話である。あるときバイクで山道を走っていたら、キツネに出会った。しっぽのないキツネで、これじゃひとを騙しようもないな、と思ったので、信用することにした。彼はバイクを路肩に停めて、烏龍茶でひと息ついた。…

ジャズ談義(17)愛好家

A Boy, Jimma, Ethiopia 私は三度のご飯より散歩が好きなの。そうかつて豪語した友人がいた。ことあるごとにそう触れ回っていたので、“豪語”といって差し支えないだろう。彼女はたしかに散歩が好きだった。大学までの地下鉄三駅ぶんの道のりをよく歩いてきて…

ジャズ談義(16)祝祭

A Store, Stone Town, Zanzibar アーネスト・ヘミングウェイがなにかの本に、「書くことがいっこうに思い浮かばないときは、暖炉の炎のまえにすわって、蜜柑の皮をこまかく千切って果汁を絞っては、それが青白い炎となって爆ぜるのをながめていた」みたいな…

ジャズ談義(15)記憶

A man at the market, Meknes, Morocco 想い出そうとしても想い出せないことというのは勿論たくさんあるわけで、たとえば、親戚の談では、私は幼いころにこんなことを言ったらしい――ぼくが寿司屋さんとケーキ屋さんになるのは、どっちがみんなよろこぶかな?…

ジャズ談義(14)盟友

A begging man, Prague, Czech Republic むかし働いていた飲食店に、見分けがつかなかった男ふたりがいた。ほとんど毎日顔を合わせていたのにほんとうに見分けがつかなくて、三週間くらいたってようやく識別できるようになった。仮に片方をマサル、もう片方…

ジャズ談義(13)怪獣

A Cat, Dubrovnik, Croatia センダックの有名な絵本に「かいじゅうたちのいるところ」があるが、怪獣というのはいったいどこにいるのだろうか。ふりかえってみてすぐ思いつくのが、二十歳を過ぎたころに通っていた、坂の真ん中の美容室である。あの美容室の…

ジャズ談義(12)石鹸面

An Interview, Yerevan, Armenia 石鹸面をした男女というものが世の中にはいて、読んで字のごとく、つるつる白くて石鹸くさいにおいをさせている。名前はナカノ、とかオオクボ、とかが多い気がする。中央線の下り列車に恨みはない。ともかくこのナカノやオオ…

ジャズ談義(11)会話

A Peddler and Children, Kanyakumari, India いつだか知人のひとりが、俺がもっとも我慢できないもののひとつは、スマートフォンをいじる親指だね、と言った。スマートフォンが嫌いなら持たなければいいじゃないか、と私は言う。ちがう、そういう話じゃない…

ジャズ談義(10)暴走

A Man and a Scooter, Jodhpur, India 幼いころ三軒隣りに住んでいたK君のきわだった特徴は、おそろしく下手糞な自転車乗りであることだった。やや前かがみになって下あごを突きだし、肘を菱形にひらいて、まるで夜目のきかないどら猫のような風情で、彼はハ…

ジャズ談義(9)禿

A Girl Playing Ping Pong, Koh Samet, Thailand とても悲しい夢のひとつに、禿夢というのがあって、これは文字どおり私の頭髪が禿げあがってしまう夢である。つむじを中心に指一本ぶんほど不毛の圏域がある。いわゆる沙悟浄型の薄毛症である。あまりに悲し…

ジャズ談義(8)桐生人

Little Priests, Mandalay, Myanmar 貰い物であるが鰐革の定期入れというものを持っている。外側はいかにも鰐らしく大小の鱗に覆われていて(肝細胞癌の拡大写真みたいに見えなくもない)、内側はきれいになめしてある。色は濃紅である。このなかにうどん屋…

ジャズ談義(7)摩洛哥

A Woman at the Market, Marrakesh, Morocco 私の記憶しているかぎりでは、モロッコ人というのは砂糖をじつによく好む人々である。砂糖屋という職業がかの国に(あるいはいずこの国にも)存在するのかどうかは寡聞にして知らないが、彼らが使う砂糖片という…

ジャズ談義(6)魚、蟻

Graveyard, Firenze, Italy 想像しにくいものというのはいろいろあって、たとえば一尺ほどの魚が一本釣りされる感覚である。水中にうかぶ珍奇な食べ物にぱくつき、ふむふむ、なにやら面妖な味がするぞ、と思ったのもつかの間、いきなり口中で食物の硬い芯が…

ジャズ談義(4)青

A Woman Roasting Coffee Beans, Gondar, Ethiopia 海に落ちた黄色のフリスビーを回収しにいったら、色が青に変わっていた、という夢をみた。そのあいだに極秘海底基地の発見やら、旧友ロニーとの再会など、より意義深いとおもわれる展開がいくつもあったの…

ジャズ談義(3)海辺児

Musicians, Livingston, Zambia 香水というのはいいもので、高望みさえしなければ、きわめて安価にお手軽に異国情緒(ないしは異人情緒、とでも言おうか)を味わうことができる。私がはじめて買った香水は、ダビドフという会社のクール・ウォーターという香…

ジャズ談義(2)夏色

Men Smoking Water Pipes, Tabriz, Iran いい言葉、ときいて、まず思いついたのは「夏色」だった。むろん有名な楽曲のタイトルであるわけだが、連想したのはそちらではなく(佳曲、いや、かなり素晴らしい曲であるとおもうが)、むしろ夏そのものの色だった…