Peanuts Monkey Cuisine

I am just a monkey man, I'm glad you are a monkey woman too!

ジャズ談義(3)海辺児

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Musicians, Livingston, Zambia

香水というのはいいもので、高望みさえしなければ、きわめて安価にお手軽に異国情緒(ないしは異人情緒、とでも言おうか)を味わうことができる。私がはじめて買った香水は、ダビドフという会社のクール・ウォーターという香水で、当時心酔していたビーチ・ボーイズの曲名と似ていたから手に入れたのだった。クール・ウォーターはいま嗅ぐとさほどの香水でもないが、クール・クール・ウォーターは過去のどの時点にもましていま聴くと素晴らしい。いうなれば、年間優秀テレビ・コマーシャル賞(夏部門)のうしろでサウンドトラックとして鳴っていたらいい。薄ピンクのパジャマ姿の若い女の子が目覚めると、となりで異星人が眠っていて、驚くのもつかの間、寝息をたてる異星人の口からあんまりかぐわしい香りがするので(それこそクール・ウォーターみたいな香りだ)、こりゃいかん、と思って、狼狽えて部屋じゅうをうろうろするうちに、ふと異星人のかばんから見たことのない銘柄の歯磨き粉がつきでていることに気が付き、これがあの瑞々しき口香の秘密か!、と悟って、裸足でいそいそと洗面所に向かう、というような宣伝がよいだろう。なんなら異星人のかわりにブライアン・ウィルソンを起用してもいいかもしれない。若年のウィルソンが白い敷布のベッドで目覚めると、隣に妙齢の東洋のレディが……いや、むしろ女など打っ棄ってしまい、若年と老年のウィルソンを共演させてみてはどうだろう。二十三歳のウィルソンが目覚めると、カリフォルニア・ガールズを軽やかに口ずさむ還暦を迎えた老ウィルソンがいて、若ウィルソンは愕然とする。どうすれば、こんな素敵な口香のする老人になれるのか! そこで天国の兄弟たちやマイク・ラブ(はまだ存命でしたね)がコーラスを口ずさみながら現れて、XX(商品名)を買えばいいんだよ~♬と、さながら室内劇のミニ・コロスのごとく若ウィルソンに教示する。そこで秘伝の歯磨き粉を知った若ウィルソンは天啓を得て、希代の名曲クール・クール・ウォーターを生み出す。そのかたわらで老ウィルソンは馥郁たる口笛を吹きながら、若ウィルソンをいかにも眩しそうに眺める――ああ、馨しきかな、多感なる若やかさよ、頼もしくも脆い無分別よ、海辺の麒麟児どもに幸あれ! 未公開版CMでは老ウィルソンからもうひと言――私は海にうかぶ木片。荒れすさぶ海をただよう。深海は底知れない、そこしれない、もう行く先が見えない。