Peanuts Monkey Cuisine

I am just a monkey man, I'm glad you are a monkey woman too!

ジャズ談義(22)金髪

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Three Cats, Inle Lake, Myanmar

きのう夫がロバート・レッドフォードの顔をした人形を買ってきた。すこし汚れたかんじの金髪といい、肌の荒れたかんじといい、よく本人が再現されていると思う。薄紺色のスリーピースのスーツを着ているのは、夫いわく『スティング』仕様なのだそう。その『スティング』のレッドフォードを意識した夫はしかし、薄紺色のスリーピースのスーツはあまり似合わない。まったく似合わないわけではないけど、あまり似合わない。夫はレッドフォードの笑い方が好きだという。すこし鼻にかかるかんじに、「ハッ!」と笑うのが好きらしい。いちど夫が真似してくれたとき、案にたがわず、鼻水が飛び出た。夫はコメディアンというタイプでもない。夫に言わせると、レッドフォードの最高傑作はもちろん「明日に向って撃て」で、次点は「グレート・ギャツビー」だそう。レッドフォードのような男は、浮薄な風来坊、侠気あふれる二・五枚目、永遠の敗け犬/アウトローこそがまさに真骨頂なのであって、もしその線を外すならば、反対に隅から隅まで優雅で技巧的なジェイ・ギャツビーのような役柄がはまりどころだという。そうやって熱く語る夫は、いったい会社でどんな“はまりどころ”を演じているのだろう、と考える私は、やはりすこし意地が悪い。ロバート・レッドフォードはどんなにおいがするのだろう。レッドフォードにかぎらず、私は映画俳優を観るたびに、そう思ってしまう――この男や女の体や口はどんなにおいがするのだろう。夫は全身からすこし変わった香りがするけれど、口臭はない。口腔衛生と胃洗浄が彼の二大情熱であるからで、冗談ではなくうがい薬に年間10万円を払っているし、毎朝2リットルの塩水で胃の中をきれいに洗っている。レッドフォードは泥酔して晩に食べたポテトフライをあらかた戻してしまうことはあっても、風呂場でげえげえと胃を洗ったりはしなかったと思う。でもそれはしかたない。夫は夫なのだし、なにからなにまでレッドフォードずくめというわけにはいかない。レッドフォードには出来るけど、夫には出来ないことは、馬乗りや、英会話や、ぞんざいなのに見苦しくない食事作法など。もちろんポール・ニューマンの相棒にもなれない。でも夫にも得意なことはいくつかあって、たとえば自分のなかのレッドフォード探し。それは無精ひげだったり、派手なローファーだったり、ぞんざいで見苦しい食事作法だったりする。そういうものたちが、夫のなかでレッドフォードらしさとして輝きを放つ。私は私がどんなにすばらしい女優になっても、ロバート・レッドフォードとは共演しないと思う。あのごつごつとした汗ばんだ顔で迫られたら、きっと悲鳴が出てしまう。このロバート・レッドフォード人形にソースかなにかをかけてやったら、夫はいったいどんな顔をするだろう。(文・写真:落花生)